認められる不倫、許されない不倫 ——40年3,680本の人生相談から見えた判断軸
不倫は、ほぼすべてが否定されるのか。それとも、意外と認められる場面があるのか。テレフォン人生相談の40年分アーカイブ3,680本をセマンティック検索で横断し、「肯定される不倫」と「否定される不倫」の境界線がどこにあるのかを、実データで調べてみた。
「不倫はダメ」で終わらせない相談室
テレフォン人生相談で不倫の相談は、実は最頻出テーマの一つだ。番組のカテゴリだけでも「不倫の悩み相談」「夫の浮気」「妻の扱い」「男と女の悩み相談」にまたがり、さらに「離婚の悩み相談」の下敷きになっているケースを含めると、全体の2〜3割が広義の不倫絡みといっていい。
40年分を眺めて分かったのは、回答者たちの答えが「不倫はダメ」の一言で済ませていないことだ。法律家は法律の言葉で、心理学者は心理の言葉で、それぞれ違う角度から切り分けている。
そして「認められる不倫」と「認められない不倫」の間には、はっきりした1本の境界線がある。
弁護士・塩谷崇之の原則:争点は「円満な夫婦関係を壊したか」
2021年12月、「不倫より悪いものがあるんでしょうか?」というタイトルの相談で、弁護士・塩谷崇之先生がこう答えていた。
> 「不倫より悪いものがあるとかないとかっていう問題ではなくて、問題は、相手が不倫をしたときに、夫婦関係が円満だったのか、どうなのか。要するに、円満な夫婦関係を壊すような不倫は——」
不倫の悪さは、行為そのものにあるのではない。すでにあった夫婦関係を壊したかどうか——そこに法律は目を向ける。
2018年の別の相談でも塩谷先生はこう言っている。
> 「事実上、向こうの夫婦関係が破たんをしている場合には、お嬢さんの行為についてえ、法的な損害賠償請求が認められない」
つまり、「壊すものが残っていたか」で法的評価は正反対になる。これは実務家の共通見解といっていい。
認められる不倫の3条件
40年分の相談を眺めていくと、責められにくい不倫には共通する条件がある。
条件1:夫婦関係が実態として破綻している
2020年10月、定年前夜の相談で弁護士・坂井眞先生はこう答えた。
> 「法律上夫婦だけれども、もう別居して、まったく夫婦関係の実態がないような場合は、裁判で離婚が認められるっていうことは、あります。」
長期別居・家庭内別居・会話ゼロ——「形だけ夫婦」の状態で始まった関係は、法律も世間も、強くは責めない。
条件2:離婚を真剣に目指す途中のプロセスである
2018年5月、「離婚するために不倫した」と言う妻を許してやっていこうと決めた夫の相談があった。精神科医・高橋龍太郎先生は、不倫そのものよりもその後の再構築をどうするかに時間を使った。
「離婚を目指すための不倫」は、動機の合理性と結果の着地で評価が分かれる。ただし、「離婚するため」と言いながら離婚に動かない場合は、次の「認められない不倫」に転落する。
条件3:DV・モラハラ・セックスレスなど、既に婚姻が破壊されている
2020年、モラルハラスメントで妻を壊した自覚なき夫の相談(玉置妙憂×大迫恵美子)では、妻が申し立てた離婚調停が扱われた。加害者側から被害者側への不倫責任追及は、実務では認められにくい。民法770条の離婚事由の一つに「婚姻を継続し難い重大な事由」があり、DV・モラハラもここに含まれる。
認められない不倫の特徴
逆に、ほぼ確実に否定される不倫の特徴も見えてくる。
特徴1:円満な家庭を壊す
これが塩谷原則の反対側。家庭が機能しているのに「新しい関係」を持ち込むパターン。2019年2月、「尊敬する夫が居ながら心も体もナンパ師にのめり込む57歳」の相談で、塩谷先生は相談者に終わらせる方向の整理を淡々と進めた。
特徴2:長期W不倫(両者既婚)
2021年4月、「生存率を吹き飛ばす癌サバイバー充実のW不倫20余年」という強烈なタイトルの相談。20年続いている両者既婚の関係に対して、弁護士・中川潤先生は玉虫色の回答を避けて釘を刺した。W不倫は「二つの家庭を同時に裏切っている」という構造のため、同情の余地が極端に狭い。
特徴3:「夫婦合意の開かれた関係」という言い訳
2020年2月、「妻にラブホの許可を求められる男——ボクたちは行き先と相手を隠さない夫婦」という相談で、坂井先生は相談者を一蹴した。
> 「あなたそれ許可して来て。それでうまくいくわけないじゃない。」
2017年10月、「夫婦納得の不貞は合法か?優しさパーフェクトな夫が不妊治療からセックスレスに」では、坂井先生がこう答えた。
> 「書面書いてくれたから、外でセフレ作って、セックスは外でして来て夫婦ずっと仲良く行くなんて、そんな——」
「合意があるから問題ない」という論理は、実務家から見ると成り立たない。合意は紙の上には書けても、人間関係の実態を変えられない。
特徴4:経済的基盤を他人に依存しながらの関係
2015年2月、「夫の不倫、子どもの家庭内暴力——起業ごっこに付き合わされただけの43歳の女」の相談では、弁護士・志賀こず江先生が厳しく事実整理をした。経済的に夫に依存しながら夫の不倫を責める構図は、「別れる覚悟」が問われる。
実感値:否定と肯定の割合
実際の数値感でいうと、相談室で扱われる不倫のうち——
- 明確に否定・やめるよう促される:6〜7割
- 事実上認められる・責められない:1〜2割
- 判断保留・相談者自身の人生選択の問題とされる:1〜2割
「95%否定」ではない。だが、「自由恋愛として肯定される」は限りなくゼロ。
肯定に近づくのは、ほぼすべて「すでに婚姻が形骸化していた」という条件付きだ。
心理学側の視点:不倫は「自分からの逃避」
法律家は「壊したか・壊さなかったか」で切るが、心理学者の見方は全く違う。
加藤諦三先生は不倫について、相談を聞くほど「依存的敵意」「実存的欲求不満」の枠組みで解釈する。つまり——
- 自分の人生に向き合えないから、別の関係に救いを求める
- 相手が好きなのではなく、今の自分から逃げたいだけ
- だから不倫相手との結婚が実現しても、今度はその関係から逃げたくなる
マドモアゼル愛先生も繰り返し言っている。「不倫は恋愛の問題ではなく、自分の問題」。
2017年10月、「同棲中の彼とのセックスレスから浮気を疑って携帯電話をチェックする25歳」の相談で、マドモアゼル愛先生はこう言った。
> 「愛が天国への切符と思ってる人は、必ず人生で挫折します。」(今日の一言)
恋愛や関係性に「救い」を求めた時点で、すでに選択を誤っている——という指摘。
回答者別の態度
相談室の回答者たちは、不倫への態度がそれぞれ違う。
| 回答者 | スタンス | 典型的な裁き方 |
|---|---|---|
| 塩谷崇之(弁護士) | 実務的・中立 | 「円満な家庭を壊したか」で判定 |
| 坂井眞(弁護士) | 硬派・原則論 | 合意論・セフレ論を一蹴 |
| 中川潤(弁護士) | 厳しく切り込む | 長期不倫に釘を刺す |
| 大迫恵美子(弁護士) | 相談者の生活を守る | 経済基盤を優先 |
| 加藤諦三(心理学者) | 不倫を逃避と読む | 自分の内面に戻す |
| マドモアゼル愛 | 詩的・本質論 | 「愛に逃げるな」 |
| 三石由起子 | 怒りながら現実を見せる | 生活実態を突きつける |
| 大原敬子 | 母性的に全体を抱える | 家族の再統合を模索 |
興味深いのは、弁護士の間でも「温度差」があること。塩谷先生は中立で事実確認を丁寧にするのに対し、坂井先生は原則論を強く出す。中川先生はW不倫や長期不倫に容赦がない。
境界線はどこか
まとめると、認められる/認められない不倫を分ける境界線は、次の3つに集約される。
1. 壊す対象が残っているか(円満な家庭を壊す不倫は否定、形骸化した婚姻上のものは責められない)
2. 着地点を見据えているか(離婚・再構築・関係終了——どこに向かうかが曖昧なものは否定)
3. 自分の人生から逃げていないか(逃避としての関係は、一時的に肯定されても長続きしない)
「自由恋愛です」という言い訳は、相談室では通用しない。だが「すでに夫婦として終わっていました」という事実がある場合には、思ったより冷静に扱われる。
おわりに
不倫は、倫理の問題というより、構造の問題だ。
40年分の相談を読んでいて思うのは、「不倫する人の多くは、不倫したくてしたのではなく、それ以外の選択肢が見えなかった」ということ。婚姻が既に壊れているのに別れられない。自分の人生に向き合えないから関係に逃げる。経済的に離婚できない。
相談室で「不倫をやめなさい」と言われる人の大半は、本当に必要なのは「不倫をやめること」ではなく、「自分の人生の構造と向き合うこと」なのだと思う。
だから、不倫をしている人も、されている人も、まず問うべきは「今の婚姻には、壊す価値のある中身が残っているか」。その答え次第で、次の一歩は大きく変わる。
相談室の40年は、その問いを繰り返し投げかけている。
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著者: ふじのすけ
投稿日: 2026-04-19 19:45 JST
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